一日一首~うたかたに恋の歌語り~ -4ページ目

70 つのる思い



つのる思いをもてあますでもがまんあなたが重くならないように



あなたをみつめるたびに
あなたに会うたびに
あなたに抱きしめられるたびに

思いが 深く深く なってゆく

私の胸には おさまりきらないほど
あふれてしまいそうなほど

ひとの思いは
どこまで 大きく 深くなるものなの?

私の 全存在を
あなたに ぶつけてみたい
そして あなたに 受けとめてほしいけれど

あなたが 重くなってはいけないので

時々 そっと

あなたにもたれかかった 自分の手をはなす

立っている 自分の足に ちからを込める





さまざまな恋の風景、ひとの風景を歌によんでみたいと思います





69 あらがえぬものにあらがって



ただひとりの君との出会いと別れこのあらがえぬものにあらがって



出会うべくして 出会ったのか
それとも 神さまの ほんの気まぐれ?

いくつもの 偶然がかさなりあった必然
ひととの出会いはいつも

そして 別れてゆくのも必然なのか

もし それが
さだめられた運命であっても

もはや 出会ってしまった
もはやこれほど 魅かれあってしまった
こよなく たがいをもとめあう私たちが
別れてしまうことのないように

あらがえぬ運命であっても
あらがってみよう

泣くのは
それからでも おそくない





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68 また会える



また会える確かな思いさえあれば生きてゆけるよすぐまた会える



その日を境に
遠く はなればなれになってしまった人
誰でも 何人か思いつくよね

転校 転勤 引越し 卒業 入学
理由はいろいろ

でも 今まで身近にいて
たいせつな時や 思い出を共有した人との
別れがたい別れであることは同じ

距離が遠く離れたら
会えなくなったら
疎遠になる??

それは 自分たち次第

今までのように 毎日のようには会えないだけだよ

物理的距離と
ココロの距離は 別だよ

会おうと思えば かならず会うと思えば
生きてさえいれば
また いくらでも会えるんだからね

生きて 同じ空の下にいて
同じ太陽に 照らされている
同じ雨に ぬれている
離れた場所で 同じ月を 眺めている

そう考えれば
ちっとも問題ないよ

克服しなきゃいけないのは
すごく会いたいときに
すぐ話したいときに
会えない 話せない

そういうさびしさだけ

そんな日 そんな瞬間は
じょうずにやり過ごして

また会おうね

年をかさねてゆくと
こんなふうに 遠く離れながらも
その存在をいとおしむ人が たくさんふえてくるよ

しあわせな さびしさだね

もし 生死を分かつ 別れがきたら…?

いつかは
また 同じ世界で再会できる と

信じていようと思う

それまでは みまもってくれていると

自分が死んだなら みまもっていてあげたいと





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67 さそり座の



さそり座の君の尾が毒か愛かは知らねどもまず刺されてみよう



傷つくことも 幻滅することも あるかも知れない
けれど 出会って
ほんとうに かかわってみなければ
あなたのことが わからない

あなたと 出会った私

そして あなたをもっと知りたくなった私

  馬には 乗ってみる
  人には 添ってみる

私は あなたに よりそってみよう


あなたの持つ さそりの尾が 毒なのか 愛なのか
 
  愛をふくんだ 毒なのか
  毒をふくんだ 愛なのか

たとえ毒でも 私は死にはしない

愛ならば?

しびれるままに身をまかせるだろうか

まだ いまはわからない

けれど どちらにしても
後悔はしない

自分で選びとったのだから






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66 父と私の 



父の人生と私の人生をかさねてみる水いらずの宴




苦労をかさねて 今日まで歩んできた父
私をいつくしみ 今日まで育ててくれた父

いまは 老いた父を
私がまもってあげられたら と思う

けれど

いまもかなわない 大きくひろい父の背中
つよく しなやかな父の心
いまも まもられているのは
ちいさな娘の 私

そんな私たちが
たがいの人生をいとおしみ 語りあう
水いらずの宴






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65 なればこそ



いびつな君といびつな吾なればこそのバランスかも知れぬ関係




妙なところでこだわって
ふつう気になりそうなところには
びっくりするほどおおらかだったり

繊細さと 無神経な図太さ
大胆さと 小心さ
常識的なおとなの理性と 常識はずれのこどもの本能
いつくしみまもりつづけたい寛容さと 破壊衝動
激情と 冷静さと

それらが奇妙なバランスで
奇妙にミックスされた
でこぼこで いびつな個性の
あなたと あたし

だからこそのバランスかも知れない

この世にふたつとない関係性
だれもがそう

ならば あたしたちは
このままでいなければ くずれてしまうのだろうか
いまのバランスを欠いたら

けれど
人は 変わる 環境も変わる 
成長もするし 年もとる

ならば きっと
その関係性もまた 成長の余地が 変容の可能性が
あってもいいにちがいないね

なればこそ あたしたちは…





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64 未知の自分を



自分がみえなくなる恋ではなくて未知の自分を知る恋がいい




あなたしかみえず 
わが身をいたぶるように 夢中で 恋をしていた

それも 後悔はない
たしかに あなたをすきだったから

でも 
自分がみえなくなって まわりもみえなくなって
つっぱしるような激情も ときにはいいけれど

一歩一歩 ゆっくり歩くように
一段一段 階段をのぼってゆくように

わたしのこと あなたのこと
そしてまわりの風景をみつめながら

たくさんの人に たくさんのものに たくさんの出来事に出会いながら

未知の自分を 未知のあなたを 未知の世界を知ってゆく 
静かで確かな手ごたえが いまはここちよい

あなたとずっと こうしていられたら
どんなにいいだろう






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63 最後の嘘



君のためつく嘘もうこれが最後ほっとするよなさびしいような




あなたに会うために
たくさんの人に たくさんのウソをついてきた

ちくりと痛む胸をかかえながら
それでも 会えるよろこびに胸をおどらせながら

もう あなたのために にどと
だれかにウソをつくこともない

忘れられようはずもないあなたに告げた さよなら

それがあたしの 最後の嘘

もう ついたウソで胸を痛めることもない
けれど あんなに胸をおどらせることも
もう ない

それは
あなたとの恋の たしかな終わりを物語る
すこしの安堵感と 癒えることのないさびしさ






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62 冷静なる狂気



みずから決めたらけっして悔やまない迷うことなくくるわばくるえ




なにかにくるうなら
そんな自分をみすえたまま くるいたい

そうきめたら
みずからすすんで 自分の狂気を受けいれよう

それでは 本当にくるうことにはならないのかな


「おれに くるえ」

と あなたが言った

私は 冷静なまま
あなたに くるってゆく

私の狂気を あなたのなかに 流し込む

あなたは それをすべて受けいれられるの






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61 寡黙のなかの熱さ 



胃透視を熱く語りし君はレントゲン技師つねは無口なひと




いつも寡黙に けれど誠実に働くその人が
急に饒舌に 表情もいきいきと語りはじめた瞬間があった
…いつもはポーカーフェイスなのに

その人は放射線技師
日々 正しい診断のために必要なレントゲン写真を撮っている

どうすれば よりきれいな写真が撮れるか
それでいて 撮られる人の負担もかるくするには

彼は 熱っぽく語った

いつも無口なその人の 秘めた熱さを感じて
なんだかうれしくなった

自分の仕事を 熱く語れる人はすきだ





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