一日一首~うたかたに恋の歌語り~ -3ページ目

80 ゆずれないこと



好きでもゆずれないことがある君の私でもなお私は私



こういうところが かわいくないのかも知れないけれど

わたしの わがままなのかも知れないけれど

あなたが そういう人であることも理解して
あなたが すきでたまらない自分をも 自覚したうえで

なお ゆずれないことが ある

わたしが わたしであるために

わたしが わたしの足で 立っているために

それでも あなたをすきなわたしがいるけれど

わたしが わたしでいられなくなるようなら
そのときは

ひきさかれる思いに たえながらも
わたしは あなたから はなれていくしかないだろう





さまざまな恋の風景、ひとの風景を歌によんでみたいと思います




79 あいしてる



混乱した君の矛盾もみんな受けとめる抱きしめる愛してる



あなたのすべてを すきになれるわけじゃ ない

いさかいも する  不満も ある

どうにかならないのと 思う

でも

こんな私を まるごと受け容れてくれるひと
ほかに いない

そして

どうしようもないなあ と思いながら

あなたを きらいになれない私
自分でも あきれるけど

いいわけのしようがない

ほかに いいようがない

あなたが すき

あなたを どうしようもなく 愛してる

あなたのすべてを  受けとめ 抱きとめられる
私でいたいと 思う


まだまだ だけどね





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78 自然とともに



われなど君などいだかれるしかない自然を前に言葉をなくす



いにしえの時から
自然とともに 生きてきた 生かされてきた 人間

その力の脅威に 畏れながら 
その美しさに 敬服しながら

わたしも あなたも
ちっぽけな存在ではあるけれど
人間も 大いなる自然の一部

そして ひとりひとりが
ひとつずつ 宇宙をもっている

自然をみつめて あるがままに 生きてゆこう

これからも あなたとともに

そして 自然に 死んでゆこう





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77 ハーモニー



すこしずつとけあってゆくハーモニー心も声もひとつになって



それは いつも
ここちよい緊張感のなかで つくりあげられてゆく

ちらかった部屋が 整理整頓されてゆくように

からまった糸を ほぐしてゆくように

ぴったりくる絵の具の色を まぜあわせてつくってゆくように

時に 緻密に 時に 荒っぽく
時に 冷静に 時に 感情のままに

にじみでる情感を ほとばしる興奮を
時には おさえ 時には 解放し 

つみかさねては くずし
くずしては つみかさね

試行錯誤を くりかえしたすえに

わたしたちは わたしたちらしい解釈と 理解をふまえ
ひとつの表現方法を つかみとる

その瞬間
わたしたちは 一体となって

幾千回も 幾万回も 奏でられてきた旋律の

このときしかない
あたらしい音を うみだす存在となる

合唱

ひとりで歌っているときには 味わえない
ひとりひとりが 水の粒子となって
大きな川の流れをうみだす
この スリリングで  エモーショナルな 
協同作業
 





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76 ただひとりのひと



われにとりただひとりただひとつの存在君は誰にも代われない



みとめてしまえば 自覚してしまえば
こんなにも 単純で たしかなことは ほかになかった

私の奥底にある 魂の叫び

  わたしにとって あなたは かけがえのないひと

  だれにもかわることのできない ただひとりのひと

それに気づいてしまったいまはもう 覚悟をきめた

もう迷うことも たじろぐことも それを否定することも ない




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75 泳ぎ疲れた海



君のにおいというシーツにくるまれ今宵はひとりしずかに眠ろう



ゆうべ ここには
たしかに 君がいた

真夜中の 深い海
シーツの波間を 君と泳ぎつづけた

都会の 暗い闇も
君と一緒なら こわくはない
冷たい海も
君と一緒なら さむくはない

泳ぎ疲れて 
岸辺にたどり着いた頃には
もう 夜明けが

そして 君は今朝
ここから 出港していった
わたしをひとり のこしたまま

ゆうべ ここに
君がいたのは 夢…?

ちがう 夢じゃない
君の 残り香が
たしかに 今もここにある

ゆうべ 君とともに くるまれたシーツを
身にまとい

今宵は 
ひとりしずかに ねむりにつこう

このつぎ ここに
君が 帰ってくる その日まで
もう 泳ぐことなく
波間に 漂っていよう

海のような 深い深い ねむりについて





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74 子をうまぬ私でも



子をうまぬ私でも何かを生もう何かをうみだす母になろう



衣食住 足りて
すこやかに 日常を過ごしていられて
まわりの人の愛情にも めぐまれて

それでも なお
自分を不幸にするのは いつも 自分

ものごとそのものに
幸 不幸は ない

自分の とらえかた むきあいかたで
いくらでも 人は しあわせになれる

人のコトバや おしつけられた常識で
自分を 不幸にしないでね

人それぞれ
自分に 課せられたものがある

それは 受けとめるしかない
そのうえで どうむきあうか

荷物を背負いながらでも
しあわせには なれるよ
笑顔には なれるよ

そして
その荷物を かるくしてくれるのが
自分のまわりにいる やさしい友人たちだね

こどもは 生めない私だけれど
この世にうみだせるもの
この世に のこしてゆけるもの

なにか あるかな…?  





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73 あなたひとりがいれば 



こころから吾を欲しいならさらってよあなたひとりがいればいいから



現実に考えれば
その人さえいれば 自分の人生
ほかに なにもいらない なんて
いえるものでは ないけれど

それほどまでに
ただひとりのだれかを 恋い慕い 焦がれ もとめる気持ちは

しあわせな感情 かも知れない

私も こんなふうに言ってみたいな

「あなたひとりがいれば ほかには なにもいらない」

「ほんとうに 私をのぞむのなら さらってほしい」



でも 言わないだろうな だれに対しても

いちばん欲しい だれか のほかにも
 
いちばん欲しい 自分の夢 たいせつな友人 
自分が 自分であるために なくてはならない仕事

私には のぞむものが 捨てられないものが
多すぎるから

嘘になってしまいそうな言葉は こわくて言えない

それに さらってくれるのなんて 待っていない

自分も 相手も それをのぞんでいるとわかれば

私なら 自分から
あなたのもとへ とんでゆく

あなたのほかにも
欲しいものは たくさんあるけれど

あなたひとりがいれば
どんなことにも たえてゆけそうだという
この気持ちだけは

ほかのものでは 代われない

それは ほんとうだよ





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72 欲深なる不幸 



あたりまえの日あたりまえのことが輝く老いを前に死を前に



自分が もう若くはないと
自分にも 死が近づいていると

切実に実感したとき

まわりの あたりまえのものが
あたりまえの日々が 
まぶしいほどに 輝きはじめる

美しい この世の自然
たいせつな人々
日常の つつましいいとなみ

あくせく歩いて 目にとめなかったものが
自分を 縛っていると思えていたものが
わずらわしいだけのことが

それら すべてが
かけがえのないものだったと 気づく

自分を まもり つつんでくれていたのだと
生かしてくれて いたのだと

できることなら
若さも いのちも 失わぬうちに

そのことに気づき 
感謝して 生きてゆきたい

  ”もっともっと あれもこれも
   まだまだたりない これじゃいけない”

自分は なんて
欲深なんだろう

そのせいで こころ満たされずいる不幸

自分自身を もっとしあわせにできるはずなのに

  ”これでいい これでじゅうぶん
   ありのまま 今 自分は生かされて
   必要なものは すべて与えられている”





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71 そこにいたのは 



年老いたいぬがいたあとに植えられたる桜の若木のみごとさ



そこには 以前 年老いたいぬがいた
いつも 家から どこかへ出かける行き帰りに通る道

  よかった 今日も元気そうだね

いつも 心のなかで
そのいぬに 話しかけていた

いぬの姿がみえないと 心配した
翌日 ちゃんとまたいるのをみて
ああ きのうは散歩でいなかったのかな と
安心したり

たまたま その道を通らない日が続いて
ひさしぶりに そこを通ったら

いぬの姿は どこにもなかった

翌日も その翌日も

いぬがいつもいた場所は
ちいさな でも花がこぎれいに植えられた 花壇になっていた

そして 桜の若木が 植えられていた

その あまりにもみごとな若々しい桜の木がまぶしくて
まっすぐに みることができなかった

これから 毎年 その木は
花を咲かせるのだろう

でも そこにいつもいたいぬは もういない
そこにいぬがいたことを 知っている人も 少なくなっていくのだろう

けれど そこにはたしかに
あの 年老いたいぬがいたんだ




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