99 辞世の日
もしも吾が明日死ねばこれが最後の歌かと空想する平和さ
のんきに 死を思い浮かべてみるのは
それを まだ遠くに感じている平和さ
それをほんとうに 身近なものと自覚したなら
寡黙に
現実的な雑事を 片づけているのかも知れない
死は 甘美なものでも
特別なことでもなくて
生きとし生けるものすべてが 経験する
とても とても 現実的なこと
明日のことは 誰もわからない
いつか来る その日まで
せいいっぱい 生きよう
さまざまな恋の風景、ひとの風景を歌によんでみたいと思います
98 せまき門
せまき門ともにくぐるか手をつなぎこたえはいまだ霧のかなたに
むすばれるはずのない あなたを追いかけ
ここまで ついてきた
むすばれない けれど
はなれることもできない あなたとわたしに
このさき
どんなよりよい関係の 可能性が
未来には あるのだろう
それを さがしあぐねる日々
それは せまき門
それでも めざしましょうか ともに
手をつなぎ
けれど そこは もしかすると
ふたりでは 通れない 門 なのかも
知れませんね…
さまざまな恋の風景、ひとの風景を歌によんでみたいと思います
97 君の人生を
わずらわしきことふくめて君の人生をひきうけようありのまま
いいこと 楽しいことばかりではない
めんどうなこと やっかいなことも 同じだけある
それでも
ともに 生きていこうと決めること
ある人が 教えてくれた
結婚って
相手の人生を ぜんぶ ひきうけること よ
と…
できるのかなあ わたしに
結婚 する資格があったのかなあ わたしに
さまざまな恋の風景、ひとの風景を歌によんでみたいと思います
96 優しさと 残酷さと
われの愛した優しさと残酷さでわれを愛しつづけよ君よ
陽は きわまれば 陰
陰も きわまれば 陽
あなたの 残酷なまでの やさしさ
やさしいまでの 残酷さ
あなただけが持つ バランス
それを 愛したのは このわたし自身
だから さいごまで
あなたは あなたのままで
わたしを 愛するときも
わたしを 捨てるときも
さまざまな恋の風景、ひとの風景を歌によんでみたいと思います
95 血肉
殺すなら残らず喰らえわれの身も骨も心も君の血となれ
あなたの血肉となり
あなたと おなじいのちになり
あなたのなかで 生きられるなら
よろこんで 殺されよう
いまあるわたしを のこらず喰い尽くせ
そのときは どうかひと思いに
中途半端に いたぶるのはやめて
さまざまな恋の風景、ひとの風景を歌によんでみたいと思います
94 仮面
つよがりの大人の仮面とりさればかくせぬ素顔はまだ少年
おとなになるにつれて
つよがらざるをえないことも ふえてくる
むりをとおして
ふんばらないといけないことも
あなたの 誰にもみせない素顔が
ふと みえたような気が した
したたかさを よそおう仮面のしたには
傷つきやすい 純粋な少年の顔
みんな そんな顔を
仮面のしたに かくして生きているのかも
涙も 弱みも みせてくれていい
わたしは いつでも
あなたのほんとうを 知りたい うけとめたい
でも
つよがりたいあなたもまた
ほんとうなのね
さまざまな恋の風景、ひとの風景を歌によんでみたいと思います
93 さざんかの下に
さざんかの木の下眠る君をゆり起こしたい抱きたいこんなにも
そこには 愛してやまない いぬが眠っている
暑い夏の日
たった一日 病んで
そのまま いってしまったあのこ
そこに 埋められたと知ったとき
ほりおこしたい衝動に かられた
どんな姿でも ふれたかった
抱きたかった
起きてよ と ゆり起こしたかった
ゆっくり ねかせてあげないと いけないよ…
言われて はっと気づいた
あさはかな 衝動
ごめんね
いままで
たくさんのしあわせを やすらぎをくれて
ありがとう
忘れないからね
もうすぐ
5回目の 夏がくる
さまざまな恋の風景、ひとの風景を歌によんでみたいと思います
92 抱かれるわけは
子をうまぬわれに意味など求めるなただ愛してるから抱かれおり
いまやもう
ほかの理由など なにひとつない
単純な たったひとつの理由
あなたを 愛しているから
わたしは
あなたに
こころをひらくように
からだを ひらく
ただ それだけ
こんなわたしを 抱いてくれて ありがとう
さまざまな恋の風景、ひとの風景を歌によんでみたいと思います
91 どこまでも
どこまでも歩いてみたい君となら緑にとけて風となるまで
5月の風にさそわれ
あなたと歩く
風がはこんでくる
木々のざわめき 鳥のさえずり
土の 緑の 花の おひさまのにおい
なにも言葉は いらなくて
ただふたり だまって歩きつづける
このままふたり
緑の風に とけてしまいたい
もう なにもいらない
わたしたちは いま
永遠にちかい場所に いる
さまざまな恋の風景、ひとの風景を歌によんでみたいと思います